経営承継失敗物語2(承継後に内紛、取締役の造反)

本事例は、後継者の性格に端を発した悲劇です。後継者の理想は必要だが、激高しやすい性格と、現状をあまりに否定した後に残ったものは…

B社は中堅メーカーの協力業者として、「協力業者会」の会長も務めるほどの、有力サプライヤーだった。 次期社長は息子である専務というのは既定路線だった。社長は温厚な方で、人望も多い。 専務は学歴も高く、イケメンだが、短気で好き嫌いがハッキリしている。また現社長に対しても、強い口調で自分の意見を言い、現社長が首を横に振ると、「じゃあ、社長が自分で直接やれば良い。私には無理です」とつむじを曲げて、席を立つ始末。 将来はこの専務が継ぐことは、どの古参幹部も分かっているが、激高しやすく、自分の意見を曲げない、自分より遥かに経験のある役員の意見も論破する(というより、理屈が多い)性格で、「ジュニアに言っても埒が明かない」と皆そう思っていた。

それで、現社長に「あのジュニアが社長になったら、会社は大変ですよ。」と心配の声を上げたが、現社長は 「そう言わず、何とか支えてくれ」 と言われ懇願された。恩義のある現社長の思いに心を痛めつつ、表面上は専務に従う感じであった。

社長もそんな専務の偏った性格を懸念していたが、社長を譲っても会長としてフォローすれば何とかなると、考えていた。恐らく、新社長になる専務がどんな人間でも、会長がいれば、役員幹部は抑えることができるし、会社を支えてくれるという自信があった。

しかし、その会長の思惑はいずれ外れることになる。日々のいろいろな積み重ねで、この専務への嫌悪感を増幅していた役員、幹部と専務に決定的な出来事が起こった。それは 「原材料が上がったことで元請に値上げを要求せざるを得ない」 ようになった時だった。専務は、営業経験がなく総務経理畑出身である。

経営会議で「値上げ幅とその交渉の仕方」について議論していた時、 営業役員や製造役員からは 「まず今回の原料値上げ分だけでも、値上げをお願いしよう。現場がどうコストダウンを図っても吸収できないから」とほぼ合意しようとした時、専務から「原料値上げ分だけでは、全然利益率が改善しない。うちは価格交渉が弱いのではないか。このままでは賞与も3か月支給が難しい状況だ。」と。

これに対して、営業役員も顧客を知っている製造役員も「わが社だけ急な値上げを依頼したら、発注量が減る可能性がある。いかに協力業者会の会長でも無理は言えない。また同業者だけでなく、海外からの購買も検討している最中、受け入れられるはずがない」 と、専務とは反対意見を言った。

専務は 「そんなことはない。うちの技術と納期は優秀だ。じゃあ、役員は賞与が少なくて、社員から不平が出てもいいと思っているのか?」こんな双方言い分のある「水掛け論」が続き、その後営業役員も製造役員も口をつぐみ、現社長の言葉を待った。しかし、現社長は、営業役員に 「何とか、10%の価格改善をお願いして欲しい。難しいことは分かっているが、専務が言うように、この場を逃しては値上げのチャンスはない」と。現社長の言うことは決定事項なので、いろいろ言いたい事はあったが、皆「10%値上げ」の方向で、対策を講じるようにした。

反発したのは、営業役員からその話を聞いた。営業部の面々だった。 「そんな無茶な。顧客の事を知らないからそんなことが言えるんだ。専務が直接交渉すればいい」と半分あきれ顔で、不満を口にした。その後、仕様の統一、部品の共通化などの提案を含めて交渉が始まった。原材料の値上げ分は早い段階で認めてもらえたが、10%値上げについては、交渉の余地がない状態だった。

2か月後、経営会議で値上げ状況の報告をした際に、専務から 「原材料部分の値上げ以外、全然交渉が進んでない。どうなっているんだ。これは営業の怠慢だ。やる気があるのか」といつも以上に、激しい口調だった。営業役員は、今後の対策や同業者の値上げ状況、交渉予定を粛々と報告するが、それに対しても、専務は 営業役員の価格交渉が進まない苛立ち、製造役員へは仕様統一、部品共通化が進まない苛立ちを隠さない。

挙句の果てには、「皆さんは考え方を変えられないようだ。昔の価値観に凝り固まった意識なら、若手中心に経営会議も変えないといけない」 と。

さして実績も経験もない2代目が、古参役員を完全否定したのだ。さすがに現社長は「専務、言い過ぎだ。」と注意したが、専務の罵倒は止まらない。これをきっかけに事あるごとに専務は、古参幹部への批判的な言動が激しくなった。

確かに専務の言っていることは間違っていないが、その言い方が激しいのと、古参幹部へのリスペクトを微塵も感じない表現に、役員は次第にストレスと憤りを感じるようになった。更に専務が若手育成と称して、役員の持つ権限や機能を勝手に若手に移管させるような指導をしていた。専務が考えたのは、「自分が社長になったら、自分の時代に相応しい役員で構成したい。その為には古参幹部には外れてもらっても結構」だという事だった。

そして数年後、専務が社長に就任し、社長が会長になった数か月後、その専務の思いは実現する事になる。役員が立て続けに辞意を表明したのだ。専務が煙たがっていた役員はいなくなったが、営業部内も製造部内も組織がガタガタしだし、専務が期待していたミドル幹部も数名から「退職願」がでたのだ。そうなると、これまで鬱憤を抱えていたミドル層から相次ぎ、退職願が出され、より社内は混乱した。

その後人手不足に拍車がかかり、受注不振、製造品質の劣化によるクレームが増え労働時間も増えるが、収益が悪化して賞与も下がり、新たな人材確保もできなくなってしまった。激高しやすい後継者、幹部の言い分に耳を貸さず、自分の意見が絶対だと決めつけている後継者は、いずれ部下から見放されてしまう。承継後にキーになる幹部やミドルの造反や離脱は、後継者に対する不信任投票かも知れない。

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