嶋田利広ブログ

事業承継のコンサルティング

事業承継失敗物語4(何故、その照明器具会社は兄弟経営で失敗したのか)

本事例は、まだ私が経営コンサルタントとして駆け出し時代の事です。まだ経験事例が少ない時だったので、鮮明に記憶しています。この「兄弟経営」の失敗事例は、全国に類似ケースが多いように思います。そのドキュメントとは・・・

その企業は照明器具の小売や卸をしている同族経営の会社だ。従業員も15名規模。年商も4億円程度。 社長である長男は当時35歳。温厚で、優しい性格だが、コミュニケーション力に欠ける。次男の専務は32歳。かなり積極的で社交的。(先代社長が若くして急逝したので、早く経営をする羽目になった)役割は社長が小売、総務経理を見て、弟の専務が卸と営業担当みたいになっていた。売上規模は卸が35000万円で圧倒的に多く、当然社員も卸中心に配置している。弟の専務は業者や設計事務所にいろいろな提案をして、拡大主義を取ろうとする。しかし兄の社長は慎重で、弟の提案がなかなか通らない。すると当然経営会議は喧嘩腰で兄弟が言いあいになる。彼等のお母さんが役員にいたが、実はそのお母さんも慎重派だったらから、専務にすれば多勢に無勢の様相だった。

兄の社長やお母さんが慎重だったのは、先代の社長(兄弟の父)が積極経営で、借入金が膨らんで経営を圧迫したと言う事がトラウマになっていたからだ。しかし、専務は消極経営では、ジリ貧になることを恐れ、先代のように攻めの経営を目指した。そして、行動しない兄の社長を「無能」と考えているようになった。

経営会議では、専務が理に叶った説明をするが、兄の社長は意見がハッキリしない。社員や外部の業者から「専務が社長になった方が良いんじゃないのか」と言う声が漏れ聞くようになった。社長は益々、守りに入ろうとする行動が増えてきて、兄弟の価値観の違いが益々エスカレートしていった。社長、専務には当然嫁がいて、それぞれ社員にしていた。お母さんが体調不良で一線を引きたいと言い出して、長男(社長)の嫁を役員にしようとした。すると専務も「うちの嫁も役員にすべき」をいってきた。ただ、わずか15名程度の会社で、同族5名が全員役員にする事は、社長は反対だった。 むしろ他人役員を入れた方が良いと思っていた。それと、社長の嫁が役員になるのは、お母さんの後継者であり、総務経理担当役員と言う大義名分があったが、専務の嫁は卸の雑務庶務の仕事中心で役員にする大義がない。この、嫁を役員にするかどうかの問題で大モメし、長男と弟の対立は先鋭化していった。

私がこの会社のコンサルティングに入ったのはちょうどその時だった。お母さんからは「兄弟が衝突しないような仕組みはないか」と切望され、契約したのだが、もともと社長はお母さんよりだったから、すんなりコンサルタントを入れる事に同意した。しかし、専務は「何で他人に経営の事を相談するんだ。身内の事は身内で解決する」と言って、コンサルタントを入れる事にもろの反対だった。一般的に一族の同意が得られない場合、トップが強いリーダーシップがあれば、何とか進められるが、この会社の場合、社長にリーダーシップがない上に、弟の専務にはリーダーシップがあると言う状況。

兄弟対決の構図を回避する為に、「分社経営」もいろいろシミュレーションした。実際には、この会社の卸と小売は相互補完機能があり、もし分断すれば大事な経営資源を失いかねない。そのことは兄の社長は十分理解していたが、弟の専務は『卸は自分が構築してきた』と言う自負がある。専務は「卸部門の分社」を求めてきた。そして自分で事業計画も携えて。 その事業計画はリアルだったが、それはそのまま「小売部門分社」が破滅をする事を意味していた。さりとて、兄の社長が卸分社の株主として50%以上持つことを専務は反対だった。そう言う社内のいざこざをしている時に、バブルの崩壊で業績がどんどん下降していった。

私も途中でコンサルティング契約は解除されたので、最後のいきさつは分からないが、結果数年後倒産と言う最悪の結果になってしまった。確かに業態的に厳しい経営であり、借入金も多く、収益性も良いとは言えない会社だったから、不景気に飛ばされた訳だが、もし兄弟経営が上手くいっていたら、もっと違う形になっていたかも知れない。兄弟経営が円滑にいく秘訣は、やはり兄を支える弟であるべきだし、兄が凡庸で弟が優秀なら親が存命に間に分社やのれん分けの道筋をつけておくべきだ。

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