嶋田利広ブログ

事業承継のコンサルティング

2026.7.30 「俺がいなくなる議論は、面白くないんだよ」― 75歳創業会長がポロリと漏らした、組織承継が進まない“本当の理由”

俺がいなく議論は嫌い会長の組織承継が進まない理由.jpg

リアルな現場から学ぶ「非財産承継」のファシリテーション術

「ホールディングス化も完了し、自社株の相続対策や節税スキームは完璧だ。これで事業承継は一安心……」

会計事務所や税理士の指導のもと、完璧な「財産承継」を終えた企業で、実は最も深刻なトラブルが頻発しているのをご存知でしょうか。それが「組織承継(非財産承継)の停滞」です。

株の移動は終わっていても、現場の小顧客の営業権限、役員人事、権限委譲のスケジュールが全く決まらず、次世代の幹部たちが覚悟を持てないまま放置されている――。

本記事では、実際の事業承継会議で繰り広げられたリアルなドキュメント(小説仕立て)を通じて、決め切れない高齢経営者の心理と、そこから抜け出すための「見える化ファシリテーション」の極意をお伝えします。

 

1:臨場感ドキュメント:モニターに映し出された組織図と、会長の哀愁

「事業承継は節税だけで終わるわけじゃない。会社の未来と現場をどう支えるかが本番なんです。」

ある地方都市、西日が差し込む役員会議室。テーブルを挟んで向かい合っているのは、創業30年を越える会長(75歳)、後継者である社長(46歳)、そして総務経理を一手になお取り仕切る会長夫人(専務・72歳)の3名だ。

外部顧問としてファシリテーションを務める私は、独特の重苦しい空気の中にいた。

この会社は、税理士の助言のもとホールディングス化を完了させており、株の相続対策は済んでいる。

会長は一株で拒否権を持つ「黄金株」を所有し、制度上の承継は形作られていた。

しかし、現場の実務――特に大口・小口問わず重要顧客の営業はいまだに会長が握っており、幹部人事や組織体制の刷新は手つかずのままだった。

「社長、うちの会社は『人』なんだよ。技術も大事だが、お客様との信頼関係は一朝一夕にはできん。今の幹部連中に任せて、本当に大丈夫だと思っているのか?」

会長が腕組みをしながら語り始める。その言葉は熱を帯びているが、内容は抽象的な精神論に終始していた。

「あいつは現場の技術はあるが、経営感覚がない。あの課長は真面目だが、交渉力が足りん。『任せる』と言ってもな、任せられる器のやつがいないんだよ。」

会長が特定幹部の名前を挙げて難色を示すたび、社長の顔色が曇る。耐えかねたように、隣に座っていた会長夫人が声を荒げた。

「あなた、そうやっていつもダメ出しばかりして!誰も完璧な人なんていないでしょう? 任せないから誰も育たないんじゃないですか!このまま何も決めずにあなたに万一のことがあったら、残された私たちが一番無責任なことになりますよ!」

「なにいっ!俺は会社のために慎重になっているんだ!」

押し問答が始まり、会議は平行線をたどる。感情的な言い合いは、同族経営における事業承継会議の「いつもの光景」でもあった。

口頭だけの議論では、互いの恐怖心と感情がぶつかり合い、1ミリも前に進まない。

私は静かに立ち上がり、持参したノートPCを会議室の大画面モニターにつないだ。

「会長、社長、奥様。頭の中だけで議論していても平行線です。一度、現在の『組織のリアル』を目で見ながら話を整理しましょう。私が今から即興で今の組織図を描きます。」

キーボードを叩き、Excel上に現在の組織図と人物配置を可視化していく。

「現在の工場長が●●さん(68歳)、副工場長が●●さん。総務経理は専務ですが、実務の会計は●●さん、総務人事は●●さんですね。……こうして並べると、一目瞭然です。部門長の多くが高齢化しており、3年以内に引退・後任人事を行わないと現場が回らなくなります。この30代の課長を3年後に引き上げて……」

画面に映し出された整然とした組織図を見て、それまでヒートアップしていた社長と会長夫人がハッと息をのんだ。

「……これは、すごく見やすいわね。頭の中が整理されるわ。」

これまで同社には、担当業務を記した表はあっても、職務権限や意思決定ラインを示す「統括マネジメント組織図」が存在しなかったのだ。

会長もモニターを食い入るように見つめ、「ふむ、確かにこのラインは……」と具体論に引き込まれ始めた。

しかし、本当のドラマはここからだった。

組織図の横に「年度別承継スケジュール」を作成し、会長・専務の代表権返上時期、取締役退任時期、新役員の昇格予定、温泉顧客の引き継ぎ、そして会長が握る営業権限の段階的委譲計画を「日付入り」で落とし込んでいったときだ。

具体化が進むにつれ、会長の表情が目に見えて曇り始めた。

「会長、このスケジュールで行くと、来期の半年間で営業の引継ぎ計画を完全に完了させる必要があります。そうしないと、次の営業責任者が困ってしまいますよ。」

社長と夫人が矢継ぎ早に苦言を呈すと、会長はあからさまにご機嫌を損ね、黙り込んでしまった。

会議の空気は凍りついたが、今回のファシリテーションの着地点は「会長の引退時期と取締役登用の事前了解」を文書化することだ。

引き下がるわけにはいかない。

私は会長を責め立てるのではなく、その沈黙の意図に優しく寄り添うように声をかけた。

「会長。30年間、この会社をゼロから立ち上げ、今日まで守り抜いてこられたのは他ならぬ会長です。この組織図の歴史は、そのまま会長の人生そのものですよね。」

会議の終わり、目標としていた決議事項の了解を得た後、立ち上がりかけた会長が私の元へ歩み寄り、ぽつりと本音を漏らした。

「先生……さっきは感情的になってすまなかったね。若い人に任せなきゃいかんのは、頭では重々わかっているんだよ。ただね……これまで30年間、自分の命を削ってやってきた会社だからね。自分が『いなくなること』を前提にした議論を目の前で具体的にされるのが、正直、寂しくて面白くなくてね……。」

その言葉には、創業経営者ゆえの深い哀愁とプライド、そして次世代への愛憎が滲み出ていた。

 

2:株や相続税対策だけでは会社は守れない。「非財産承継」の壁

経営コンサルタントや会計事務所が陥りがちな最大の落とし穴は、「事業承継=自社株対策・相続税対策」で満足してしまうことです。

経営金庫の移転や節税スキーム(財産承継)は、士業が得意とする数値と法律の世界であり、計画通りに進めやすい分野です。

しかし、中小企業の現場で本当に会社を揺るがすのは、「非財産承継(組織・権限・人間関係・事業ノウハウの承継)」の停滞です。

どれほど株を綺麗に後継者へ引き継いでも、長年君臨した会長が営業権限を握り続け、役員人事への意思決定を先送りにし、「あいつはダメだ」と幹部候補へ覚悟を持たせる説明を怠っていれば、組織は骨抜きになります。

次世代の役員候補は

「どうせ自分たちは信頼されていない」

「いつまでも決めてくれない」

とモチベーションを低下させ、最悪の場合、離職に繋がります。

財産承継が「過去の資産の整理」だとすれば、非財産承継は「未来の組織構造の構築」です。

ここを決め切らない限り、企業の真の持続可能性は担保できません。

 

3:なぜ「第三者の経営承継顧問」によるファシリテーションが必要なのか

事例の通り、組織承継の現場は「感情の地雷原」です。当事者である社長(後継者)や会長夫人、そして創業会長の3者だけで話し合いを行うと、どうしても甘えや過去の恩怨、そして「寂しさ」と「焦り」がぶつかり合い、感情的なケンカに発展してしまいます。

ここで決定的な役割を果たすのが、客観的な立場から会議をコントロールする「経営承継顧問(ファシリテーター)」です。

第三者であるコンサルタントが間に入り、以下の3点を実行することで議論は劇的に進みます:

  1. PCやモニターを活用した「即時可視化」: 抽象的な口頭議論を排し、その場で組織図や職務権限、年度別スケジュールを「目に見える形」にして議論のテーブルに乗せる。

  2. 感情と構造の分離: 「個人への感情的批判」を「組織構造上の課題」へと昇華させ、誰がいつどのような覚悟を持つべきかを論理的に示す。

  3. 創業者の「感情(寂しさ・プライド)」への配慮: 単に論破するのではなく、創業者の功績を承認し、寂しさに寄り添いながら着地点へ導く。

自社内だけ、あるいは税務だけに特化した支援だけでは、この「感情的なもつれ」を解きほぐすことはできません。

だからこそ、組織承継に悩む企業には、現場に深く介入できる専門の経営承継顧問が必要なのです。

 

4:結論:非財産承継のスキルを身につけ、顧問先の未来を創る支援者に

事業承継は、単なる税金対策でも、名義変更の手続きでもありません。

創業者が命を懸けて築いた歴史を受け止め、次世代の役員・幹部陣が覚悟を持って立ち上がるための「感情と組織の再構築」です。

「うちの会長は決め切ってくれない」「顧問先の組織承継が感情論でストップしている」―

そうお悩みの経営者様、そしてコンサルタント・会計事務所の皆様。ぜひ、当社の提案する「経営承継顧問」を活用し、第三者ファシリテーションによる「見える化承継」を実践してください。

 

【支援者の皆様へ:非財産承継コンサルティング技術を学ぶ】

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