ほとんどの病院や施設には、就業規則や服務規律があるはずです。ただ、実際に現場で起こる数々の課題に対して、一般論的な規定で十分かと言えば、おそらく疑問符が付くのが実情だと思います。よく言われるのが、「どこかの専門家に依頼したが一般論のひな形で作成されており、その組織固有の内容が網羅されておらず、使えなかった」と言う声です。現実的には、就業規則だけでは、どんなに具体的に書いても限界があるのも事実です。
前号から引き続き、就業規則の補完的意味合いの「内務規定」で掲載して頂きたい箇所をご紹介します。この内規は、施設独自のハウスルールが主体になるので、労働法規上の課題を社労士を入れて、作成する事をお勧めします。
前回は
「異動命令への順守義務」
「セクハラ・パワハラへの処分経緯と窓口の明確化」
「マイカー通勤に関する取り決め」
「就業時間に関する基準」
「時間外労働に関する基準」
「出退勤の基準」
「欠勤について」
ご紹介しました。
今回は、
8、出張者の勤務時間について
「出張する場合は、勤務時間を正確に把握することが難しいため、通常の勤務時間を勤務したものとみなし、次の日のため休日に出張先に移動する場合、移動するだけで勤務がない場合は、勤務時間とは扱わない」旨を明記します。
また、「出張先での業務が明らかに所定労働時間を超える場合は、上司に申し出て、時間外勤務時間の取り扱いを受ける事と、直行・直帰については、上司に報告し、許可を得る事」も注意書きにします。
9、有給休暇の取り方について
「年次有給休暇を申請する場合は、所定の書式を使って、1週間前に届出」と言う事前の申請をベースにする事を明記します。
また、「有給は、できるだけ本人の請求があった日に与えるようにするが、業務の都合によりどうしてもその従業員がいなければ業務に支障が出るような場合は、会社は別の日に年次有給休暇を取るように命令することがある」旨をしっかり伝えます。
「休暇の取得により、お客様や職場の仲間に迷惑をかけないように、業務を前倒ししたり、休暇中にお客様からの問い合わせに対応できるように、上司や同僚に引き継ぎ」等も基本姿勢と記述します。
「3日以上連続して年次有給休暇を取得するときは、職場の上司や同僚の協力体制をとる為に、休暇日予定日の2週間以上前に所属長に申し出る事」も社内体制を考慮すれば必要なルールと言えます。
10、休職に関する取り決め
今後増える精神疾患や体調不良の休職には最低限の規制が必要です。
先ず、
「休職期間は無休である事」
「休職は会社が指定する診療機関を使い、1カ月ごとの報告を求める事」
「休職期間は勤続年数に加算されない事」
「同一または類似の事由による休職は1回のみ」
「休職期間が終わるまでに休職事由が消滅しない場合は自然退職」 等を明記します。
11、退職に関する取り決め
退職の定義を決め、その日を退職の日とし、従業員としての身分を失う事を明記します。
(1)死亡したとき
(2)会社に届出のない欠勤が所定の休日も含め連続14日間におよんだとき
(3)自己の都合により退職を願い出て、承認されたとき
(4)定年に達したとき
(5)期間を定めて雇用した者の雇用期間が満了したとき
(6)休職期間が満了しても復職できないとき
(7)会社の役員に就任したとき
(8)会社が行う退職勧奨を受け入れたとき
(9)関連会社に転籍したとき
(10)その他、退職につき労使双方合意したとき 等です。
また
「退職を希望するときは、少なくとも30日前までに、所属長に退職願を提出」(これはローカルルールです)
「退職願を提出してから実際の退職日の間は、誠実に勤務し、業務の引き継ぎを完了する事」
「退職願を提出してから実際の退職日の間に年次有給休暇を取得する場合は、引き継ぎを充分に行う事」
「充分に引き継ぎが行われることなく年次有給休暇を取得した場合は、懲戒処分の対象になる事」
「退職時までに会社から貸与された健康保険証、文房具、制服、備品などを返却」
「業務の都合で、退職後も連絡を取り可能性があるので。退職後の連絡先を伝える事」等を明記します。
12、解雇に関するルール
解雇についての定義を詳細に決めます。
事例としては、
(1) 精神または身体の障害により、業務遂行が難しいと認められるとき、または完全な労務の提供ができないと判断された時
(2) 勤務成績(人事考課結果含む)または勤務態度が著しく不良又は意欲不足で、再三の注意にもかかわらず改善の見込みがないとき
(3) 社員仲間への精神的な危害、又はその人の影響による悪影響(仲間の退職事由)が発覚し、注意指導にも関わらず再発した場合
(4) 特定の地位(年収条件として)、職種または一定の能力の発揮を条件として雇用さられた者で、その能力貢献および適格性が欠けると認められるとき
(5) 事業の縮小または廃止、その他事業の運営上やむを得ない事情(業績悪化)により、従業員の削減減員が必要になったとき
(6) 懲戒解雇に該当する事由があるとき
(7) 天災事変その他やむを得ない事由により、事業の継続が不可能となったとき、あるいは雇用を維持することができなくなったとき (8)その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき 等です。
前号から引き続き、就業規則の補完的意味合いの「内務規定」で掲載して頂きたい箇所をご紹介します。
前回までは
「異動命令への順守義務」
「セクハラ・パワハラへの処分経緯と窓口の明確化」
「マイカー通勤に関する取り決め」
「就業時間に関する基準」
「時間外労働に関する基準」
「出退勤の基準」
「欠勤について」
「出張者の勤務時間」
「有給休暇の取り方」
「休職に関する取り決め」
「退職に関する取り決め」
ご紹介しました。
今回は、後からいろいろ問題になる「懲戒」「解雇」に関するルールについて、内務規定案をご紹介します。
一般的に「就業規則」では、下記のような事由に該当する場合と規定されている施設が多いようです。
- 精神または身体の障害により、業務に耐えられないと認められるとき、または完全な労務の提供ができないとき
- 勤務成績または勤務態度が著しく不良で、改善の見込みがないとき
- 勤務意欲が低く、これに伴い、勤務成績、勤務態度その他の業務能率全般が不良で、改善の見込みがないとき
- 特定の地位、職種または一定の能力の発揮を条件として雇入れられた者で、その能力および適格性が欠けると認められるとき
- 事業の縮小または廃止、その他事業の運営上やむを得ない事情により、従業員の減員が必要になったとき
- 懲戒解雇に該当する事由があるとき
- 天災事変その他やむを得ない事由により、事業の継続が不可能となったとき、あるいは雇用を維持することができなくなったとき
- その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき
ただ、『解雇』は従業員の生活保障権を奪う事になり、労働法上も労働者を擁護する立場に立っています。従って、どういう場合が「解雇」相当の懲戒事由かを明確にしておく必要があります。ある程度、規定が進んだ施設では、懲戒解雇の該当事由の説明として、下記のような表記をしています。
従業員が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とします。ただし、情状により諭旨退職、降格、出勤停止、減給処分とすることがあります。
- 正当な理由がなく無断欠勤をした場合に、その無断欠勤をした日以前6ヶ月間の間に連続・断続を問わず7日以上の無断欠勤があり、その間出勤の督促をしても応じないとき
- 重要な経歴を偽り、採用されたとき
- 刑事事件で有罪の判決を受け、社名を著しく汚し信用を失墜させたとき
- 故意または重大な過失により、災害または営業上の事故を発生させ、法人に重大な損害を与えたとき
- 法人の許可を受けずに在職のまま他の事業の経営に参加したり、または他の法人に雇用されたり、あるいは、自ら事業を営むとき
- 職務上の地位を利用して第三者から報酬を受け、もしくはもてなしを受けるなど、自己の利益を図ったとき
- 就業規則および法人が定める規定に違反した場合で、その事案が重大なとき
- 前条の規定により、譴責、減給、出勤停止、および降格の処分を受けたにもかかわらず、なお改善の見込みがないとき
- 暴行、脅迫その他不法行為をして著しく社内の秩序を乱したとき
- 職務上知り得た法人の秘密事項(顧客データなどを含む)を第三者に漏らし、または漏らそうとしたとき
- 法人のデータを許可なく持ち出し、あるいは持ち出そうとしたとき
- 法人の所有物を私用に供し、または盗んだとき
- 法人のお金を不正に横領したとき、または横領しようとしたとき(それが経費精算などで小額である場合も含む)
- その他前各号に準ずる程度の行為があったとき
今までよりも少し踏み込んだ表現をしています。しかし、私共の経験から言えば、医療福祉の従事者には、こういう一般概念論よりも、具体例を挙げた事例を示した方が、内規には良いかも知れません。 以前にもご紹介しましたが、例えば、下記はある病院で作成したものです。これは今まであったケースを紹介し、それが懲罰行為になる事を明記したものです。
- 業務中、患者及び職員又はサービスの利用者に対して、副業行為であるネットワークビジネスや通信販売の強要と誤解される行為をした場合は該当する
- 業務中 患者及び職員又はサービスの利用者に宗教等の普及と誤解される執拗な案内をし、本人の迷惑をかけたと判断された場合は該当する
- 物品・機材が職員の不注意により損壊・紛失した場合は必ず申告しなければならない(その状況と不注意度、頻度、実被害に応じて一部費用の負担を伴う事がある)
- 業務に関係ない電話で、イチイチ業務に支障を来たす外電(私的理由等)が改善されない場合は該当する(防げない営業電話以外で)
- 業務中(休憩時間以外)に喫煙者が喫煙場所に移動して喫煙する時、業務に支障を来たすほど何回もあった場合や喫煙時間が長い場合で、幾度か注意されても、改善されてないと判断された時は該当する
- 無断遅刻、無断欠勤による業務へ支障を来たすと判断された場合は該当する
- 同じ人の、同じような原因・ケースでの不注意によるミス、トラブルが連続して発生した場合は該当する
- 病院へ報告せず患者・利用者からの金品・供用を勝手に受け隠匿した場合は該当する
- 飲酒運転による免停、取り消し等の処分があった場合、その運転免許が業務上、必要かどうかを問わず、その状況により懲戒解雇もありうる
- 度重なる交通違反により2ヶ月免停以上の罰則で車両運転ができず、業務上他人に迷惑をかける場合は該当する
- 院内・訪問先で理由の如何に関係なく暴力、又は暴力と誤解される行為、言葉の暴力を使用したり、又はそれに相当する行為(虐待)をしたと判断された場合は、その状況により懲戒解雇もありうる
- セクシャルハラスメント・パワーハラスメント及びそれと誤解される行為をした場合(セクハラはセクハラ委員会で処分決定)は該当する
- 重要な報告を遅延したり、虚偽報告したり又は報告がなく、問題になったと判断された場合は該当する
- 業務中の自己の不注意による人身、物損交通事故を起こした場合は該当する
- 当事者が注意していても、法人の車両損傷し、その報告義務を怠った場合は該当する
- 刑事事件につながる法律違反を個人で犯した場合(警察による処理を必要とした場合)、その状況により懲戒解雇もあり得る
- 公平な理由で始末書を要求したにも関わらず提出しない場合、所定の手続きを経て、賞罰委員会で処分が決定される
- 故意に患者、利用者のカルテからの情報持ち出しをした場合は、その状況により懲戒解雇もあり得る(別途 個人情報保護規程に準じる)
- 業務上知りえた患者・利用者情報及び、院内の機密情報に関して「守秘義務」を果たさなかった場合は、該当する
- 幾度となく注意をしたにも関わらず、携帯電話でのマナー違反がなくならない場合は該当する
- 法人内で男女間のトラブルや風紀の乱れと判断される行為があり、組織管理上、支障をきたすと判断された場合は該当する
- 学歴詐称、経歴詐称が発覚した場合は、賞罰委員会より処分が決定される。その状況と影響により、懲戒解雇もあり得る
- 職務上の地位を利用して、私利を図った場合又はそのように誤解された場合は、その状況により、懲戒解雇もありうる
- 業務中に飲酒をした場合は該当する
- 職員の不注意による 訓練中の転倒等で、患者が骨折等で手術が必要になった場合は該当する
- 職員の不注意による データ資料類の紛失で情報漏えいの可能性がある場合は該当する
- 他人を教唆して、違法行為をさせた場合は該当する
- 資格者として、法令にある違反行為をした場合は、該当する
- その他、管理者の進言により賞罰委員会が罰則対象と判断した場合
以上のように従業員から見て「何をすれば懲戒行為なのか」が」ある程度分かる表記は、管理上必要な職員教育かも知れません。この3回シリーズで紹介した「内務規定」は決して万能でもないし、かと言って職員を縛り付けるツールでもありません。この職場で気持ちよく働くために、常識を文書化しただけのものです。しかし、入職時に説明し、管理職にも定期的学習の機会を与える事で、マネジメントは少しはしやすくなるようです。
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