嶋田利広ブログ

事業承継のコンサルティング

事業承継失敗物語5 何故、その会社の息子は継ぎたくないと言ったのか(町の印刷会社のケース)

SWOT分析、KPI監査、採用サイト、事業承継「見える化」コンサルタントの嶋田です。

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久しぶりに「事業承継失敗物語」を書きます。

これも実際にあったドキュメントです。

もっと早く、この印刷会社の社長が意思決定し、前向き戦略に取り掛かっていれば…

ではどういうドラマだったのか?

1、最初は継ぐつもりだった後継者

B社は地場で長年事業をしてきた街の印刷会社。

地元の学校や自治体の需要や町の商業印刷に支えられてきた。

しかし、印刷業界はピーク時12兆円あった市場が4兆円まで縮小した。

そこまで市場規模は縮小したなら、印刷業者の数も1/3になっても良さそうだが、現実には80%がまだ生き残っているという珍しい業界だ。

という事は価格競争にされされながらも、減価償却も終わった機械をだましだまし使い、借入金も少なく、家族企業で人件費を抑えて細々とやっている印刷会社が多いという事だ。

 

その印刷会社の後継者は大学卒業後、大手広告代理店に勤めていた。

いずれは印刷会社を継がねばならないかもしれないとは思っていたようだ。

社長もこんな印刷会社を継いでも息子は苦労するだろうから、自分の代で終わらせるべきかどうか悩んでいた。

しかし、地元の顧客からは「続けてくれ」と懇願されたり、地元商工会の理事をしていたりと、長年続く老舗の印刷会社の看板を早々簡単に閉ざすことはできない状況だった。

確かにこの印刷会社は借金もないが、社長と奥さんは年金がもらえる年齢、長年支えてくれた工場長も定年を超えており、後数名の社員も兼業農家で、この会社の仕事がなくなっても、飯が食べられない訳ではない。

 

2,SWOT分析で見えた論理的限界

そんな状況で後継者が帰郷すべきか、そのままサラリーマンとして都会に残るべきか、話し合いがもたれた。

社長は会社の状況を具に説明し、おカネの問題、顧客、商品の問題、人の問題などなど・・

後継者は大手広告代理店で勤めている関係で、印刷会社の経営に多少なりとも知識があった。

「街の印刷屋」でも生き残れる将来の可能性について、後継者は父である社長にいろいろ質問し、可能性を模索した。

そこでSWOT分析を使って外部環境や内部要因を冷静に行った(後継者が現職でSWOT分析を学習していたので、見様見真似で行った)

資産として持っている「顧客」の「強み」は捨てがたい魅力はあったが、如何せん、それ以外の経営資源があまりにも少ない。

厳しい言い方だが、現社長時代に「暖簾に胡坐をかかず、前向きな投資や拠点展開、最新営業の導入、地域メディアなどの独自性を追求」していれば、何らかの突破口があったかもしれない。

分析すればするほど、後継者の顔は曇っていった。

そして、社長自身も「この会社の将来は厳しい」と思っていたが、それが後継者とのSWOT分析でのやり取りから理論的に「将来性がない」事が裏付けされたカタチとなった。

その結果、後継者に「帰って、うちを継げ」とは言いにくくなってしまった。

この場合のSWOT分析は成長戦略を決めるものではなく、後継者が継ぐべく未来の可能性があるかを分析したものだった。

 

残念ながら、「継ぐ価値なし」と後継者は決めてしまった。

ただ、社長も落胆する様子もなく

「うちに帰ることで、息子の人生が好転すればいいが、苦労ばかりさせるなら継がせない方が良い」

と、自前でSWOT分析の結果を受け入れた。

もし、事業承継を円滑にし、未来も持続可能な企業にしたいなら、早い段階から「将来戦略」を考え、それに沿った「トンガリ」「差別化」をつくるべきだった。

この会社またはこの業界は、長年の地元需要と低固定費で生き残ったことが「ゆでガエル」現象とも言うべき状況をつくったようだ。

だから、未来がない企業に、後継者と言えども、自分の人生を賭けることができないのは当然の事だった。

 将来を考える為のSWOT分析が、後継者が継がない理論的根拠を与えしまった訳だ。

この印刷会社は、その後営業権や設備を同業の印刷会社に譲渡して、幾ばくかの資金が経営者に元に残った。 

 

 もし、この印刷会社のSWOT分析をもっと早く、そして我々が行うような経営資源や顧客資源、顧客ニーズの深堀をして、未来の可能性を考えて、社員採用でもしていれば、話は変わっていただろう。

この経営者のどっちつかずの判断から、「設備投資もしない」「社員も採用しない」「新たな営業の仕掛けもしない」と言う事が、ますます事業承継を難しい物にしたのだ。

そこそこの資産もあり、廃業しても誰にも迷惑を掛けないからと、決断の先送りをしてきたつけだともいえる。

もう少し前段階なら、M&Aでももっと高額で売れたかもしれない。

 

その業界がダメなのではなく、経営者の判断の遅れが原因だともいえる。

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