嶋田利広ブログ

中小企業のコンサルティング

何故、社長には社員の心の声が届かないのか?

今回は、私のようなコンサルタントなら、誰でも経験するお話しです。昔から『下3日にして上を知り、上3年して下を知る』と言うことわざがあります。これは組織での一般社員は3日もあれば、上司や経営者の本質や特徴を知る事ができるが、経営者や上司は、一般社員の本音や本質を理解するのに3年は掛かるという例えです。このように、下の人間の心や思いはなかなか上には伝わらないのが、組織であり、それから派生する悲劇が歴史の中で繰り返されていると言えるでしょう。だから『良い経営者・管理者の条件』の第1番目に挙げられるのは、社員の生の意見を聞くよう、『現地・現場・現実』の3現主義で対応する事と言われるのです。

 以前 刑事物の邦画で『事件は会議室でおこっているんじゃない。現場でおこっているんだ』と言う名文句がありました。まったく同等な事が、企業の大小に係わらず起こっているのが実情です。

 私たちが以前、ある中小企業の経営診断をしたときのことです。様々な部門や顧客、取引先からインタビューをしたり、会議や営業同行に参加して、分析した結果、『現場知らずの穴熊経営』と言う一言集約をした事があります。その企業の経営の本質を理解する為に、『その会社の経営者の実態、経営判断の状況を一言で言ったら、何というべきか』を整理するのです。『現場知らずの穴熊経営』とは文字通り、社長が社長室や会議室から、現場になかなか出てこなくて、役員や幹部の意見で経営判断される事への皮肉を込めた表現です。

 その会社では、社員には相当な不満があり、その原因は役員幹部による社員への一方的な仕事の押し付けがありました。正直、社員のキャパシティを超えた業務命令が度々行われ、それを実現する為に、残業のみならず、休日出勤も当たり前の状況で、社員が疲弊していました。しかし、そういう状況下でも、役員や幹部による社長への報告では『顧客の納期とコストの要望を聞く為には、仕方ありません』と必要悪を説いていたのです。私たちも、生産性からいえばある種仕方ないと最初は判断しましたが、現場に覇気がなくなり、品質クレームが続発してきたので、放置できないとえ 再度、末端社員への非公式なインタビューをしました。すると、過重労働によるケアレスミスや報告遅延、現場の整理整頓の意識の欠落など、『現場崩壊の危機』を目の当たりにしました。当然、その事を役員幹部に説明しましたが、「気持ちは分かるが仕方ない」の一点張りです。どうも、社長による生産性アップを最優先する方針に従う為には、ES(社員満足)は後回しと言った感じなのです。

 これでは、いつ大事故や大クレームが発生して、大きな損失を食らうか分かりません。社長にもその現実を報告しました。すると社長は『それは先生の過剰反応でしょう。うちの役員からは、まだ何とかなると言う報告が上がってますし、社員からも直接不平も聞かないですよ』と答えたのです。

 『穴熊経営』で且つ独裁的な雰囲気のある社長には、事実が見えないのでした。また役員も事実をオブラードに包んで伝えるものですから、より社長の判断は違ってきたのです。私たちは『匿名の社員アンケート』を提案しました。社長に実態の声を理解してもらう為です。最初はなかなか首をに振らなかったのですが、最後には了解を貰い、アンケートを取り、私たちで集計分析しました。ここにはちょっとしたポイントがあって、本来なら総務が行うのが筋ですが、その総務部長は社長の奥さんで、社長以上に現場泣かせの無茶な指示をする方だったからです。アンケート集積の結果、匿名が功を奏して、いろいろな会社の批判、改善策、個人名の非難が上がりました。

 社長に報告した時、社長が一番食い入るように見たのが『このままでは結婚もできないし、自分達の声は この会社のトップには届かないと言う空しさがあります。今の特注品が納品したら辞めたいです』と言う意見に代表される『辞めたい』と言う10人以上のコメントでした。

 社長もまさか、こんな事とは思ってなかったみたいで、その後、少しづつですが、社員と昼食したり、現場に入ったり、声を掛けたりするようになり、社員も気軽に社長に話しかけるようになりました。社員の意見が届かないのは、社長に聞く耳を持ってないケースもありますが、組織的に下意上達しにくい風土がある事も多いのです。ですから、社員アンケートのような事は定期的に行わないと、『穴熊経営者や穴熊役員・幹部』を作ってしまうのです。

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