病院・施設に巣くう「見えないハラスメント」への教育
ある病院で管理職に対して「ハラスメントアンケート」を取りました。
その結果、明らかなハラスメントの確認はできませんでした。
しかし、この病院では立て続けに若手職員が辞めていっています。
その理由は上司、先輩の一部にある「ハラスメント」にある事は分かっています。
そのため、経営側と看護部長、事務局が相談してこのアンケートを行ったのです。
しかし、ほとんどの管理職にはその自覚もなく、むしろ「若手職員の能力不足」「やる気不足」を嘆くコメントが多数寄せられました。
この結果に経営側は愕然としました。
1、この兆候が起こると、部下の離職は秒読み段階
人は辞める前に何等かに兆候的な行動をとります。
中には全くそういう態度を見せずに、いきなり退職届を出すケースも増えていますが…
(弊社病院・福祉施設調査「結婚出産・健康障害以外で辞めたくなった組織風土の理由調査」より)
⑴ 今まで出勤時間に余裕があったのに、最近ギリギリになっている
⑵ 提出書類がどんどん遅くなっている
⑶ 今まで黙っていても書類提出期限を順守していたのに、催促しないと提出しないようになった
⑷小さなミスが連発している
⑸朝の挨拶に元気がなくなった
⑹ミーティングやカンファでも意見を言わないようになった
⑺最近、反体制的な職員と、仲良くなったようだ
⑻勤務変更や要望が最近増えてきた
⑼介護・看護レベルの高い業務を何かと言い訳して、しないようになった
⑽個人面談をしても、言われるがままで、自分の意見を言わなくなった
⑾職場の中で、孤立しているような感じであった
⑿家庭か職場かに問題があるようで、寝不足気味のような感じである
⒀施設内・院内のイベントやプライベートでの誘いも、いつも断るようになった
⒁会話をすれば済むことでも、メールやメモを使い、コミュニケーションから逃げている
⒂今まで従順だった職員が、明らかに反抗的な態度を取るようになった
最近は、事前相談もなく、そういう素振りも全く見せず、退職届を出すケースもあります。
激しい場合「退職代行会社」から退職届が来て、「辞めなければならなかった理由」が事細かに書かれているケースがあります(ハラスメントで訴えるつもりかと思えるような内容)
2、部下との境界線を越える「行き過ぎた指導」が部下を潰す
実は管理職によっては「何故、部下の看護師・介護士が辞めたか分からない」とこぼす人は多いものです。そして、当事者ではなく、関係者によくよく聞いてみると、
「部下の為によく教育もしている」
「常に部下の動向を把握して、チェックや指示も怠りなく行う」
「厳しいことは言うけど、決して間違ってないし、部下も素直に受け入れている」
「たまには部下を誘い、食事もいく」
「仕事もできるし、部下から見ると尊敬できる上司、先輩」
こんな評価が返ってくるパターンがあります。
これだけを見ると「大変有能なリーダー」です。
こんな素晴らしいリーダーがいるのに辞めていくなんて、問題は「若手職員」にあったのでは…
と上司も周囲も思っています。
しかし、辞めた当事者に聞くと、どうもそれだけではないようです。
⑴上司が仕事のレベルが高いので、同じ水準を要求されてツライ
⑵上司の指示の仕事を戸惑っていると、「私がやるからいいよ」と手伝ってくれるが、自分の能力の無さを思い知らされる
⑶上司の指示は間違っていないけど、言い方がきついし、逃げられない言い方をされるので精神的に参ってしまう
⑷自分の仕事量、作業量が多いと思うが、上司は簡単にこなしているので文句が言えない
⑸上司の何気ない言葉に「バカにされている」と感じる事がある
⑹自分の考えや意見を聞かず、一方的に上司に言い分を伝えてくる
⑺ミスした時に注意や叱責の言葉が厳しい、人の前でも恥をかかされる
⑻職場を離れたらなるべく一緒にいたくないのに、食事に誘ってくる
実は、「仕事ができる上司」に対してこういう感覚を持った若手職員は相当数います。
しかし、「正しいことをしている」と信じている上司には、部下のそういう思いは「ネガティブ」「弱気」「逃げ」にしか聞こえないのでしょう。
3、部下が落ち込まない叱り方・注意の仕方のルール
若手の職員を育成するには上司側も最低限のルールは知っておかなければなりません。
特に叱り方、注意の仕方にはルールがあります。
⑴叱る前・注意する前に、一呼吸おいて自己チェック
①自分の指示の仕方が悪かったのではないか
②仕事量が多すぎたのではないか
③難しすぎる仕事を与えたのではないか
④時間が少なすぎたのではないか
⑤本人ではなくほかの人の責任ではないか
⑥上手くいかない事情があったのではないか
⑦どこか体調が悪いのではないか…
そういう確認をした後、実際に「叱る・注意」する時の基本的な流れは以下の通りです。
⑵叱るときの基本的な流れ
① 叱る前に「相手の心を開かせる」…「今日はお疲れ様」「あの件は助かったよ」「近況」を聞く等の前置きをする
② 部下の心の準備をさせ、事実の確認を行う
・「実は、○○の件で、君に聞きたい事がある」と懸案を言う。
・「○○が起こったのは、何が原因か」
・事実を徹底して聞き出す(言い訳を言ってもすぐに否定しない)
③ 弁明させる
・最初から責めこまず、十分弁明を聞く機会を与える
・弁明も言い訳も、先ずは聞き、言い分に正当性があるかを確認する
④ 叱る
・明らかに怠慢や分かっているのにルール違反の行為であれば、その事実を叱る
・弁明が自己保身や他責にしているようなら、その件も叱る
・以後2度と繰り返さないように注意する
⑤ ケアする
・叱ったら、ネガティブな雰囲気で終わらせないように、「頑張って」「しっかり頼む」「君には期待しているからな」とポジティブな声掛けを忘れない。
⑶「かりてきたねこ」が「叱り上手」のコツ
4、「指導しない、部下に気づかせるコーチングマネジメント」
⑴部下のヤル気を下げる一言(完璧なハラスメントワード)
①「フーン、だから?それで?結局何が言いたいの?」…真剣に話を聞こうとしない威圧型
②「(部下のレベルの低い意見や考えを聞いて)はぁーとため息」
③ 「だから、いつも注意しているだろう、何回言ったら分かるんだ」…トラブルが起こった後に吐き捨て言葉
④「ごちゃごちゃ言わずに、とにかく言った通りやれよ」…部下の言葉を聞かず、まず決まった事を型通りさせる
⑤「あなた、使えないなあ」「もういい、他の人間にさせるから」…部下の姿勢・能力を全否定
⑥「もっと、頭使えよ」…日ごろのイライラ感が出た言葉
⑦「なんで、やらないんだ」…「何故」の事実を聞いているのではなく、ただ怒っている
⑧「今、職場がどんな状況か知っているの?」…会社の危機感をいつも全面に出すが、個人のヤル気に直結しない言葉
⑨「それくらいの事で…」「大したことないだろ」…自分の経験レベルで物事を判断し、部下のレベルや信条で判断しないタイプ
⑩「家でどんな教育を受けてきたの」「気が利かないなあ」…躾の厳しさを超えて、人格否定まで言うタイプ
⑵コーチングマネジメントはとにかく「考えさせる質問」から
①即答え・アドバイスを言わない。答えを言うから指示待ち族が生まれる
②「何故」そうなったのか、自身で考えさせる
③「何故」を複数回繰り返す
④「何故」はあくまでも、こちらの反省点であり、会社のせい、顧客都合、外部環境の要因にさせないようにする
⑤「何故」の質問から、「本来、こうすべきだったのに、しなかった」という本人の内部要因を導き出せば、再発防止になる(原因追究が甘いと、トラブルは繰り返される)
⑶「認める」「褒める」効用
①人は誰も褒められたいし、認められたい欲求がある
②部下に頑張らせる為に無理やり褒める事=「お世辞」「おだてる」は逆効果(部下は本能的に上司の腹を探る)
③「褒め下手」「口に出してイチイチ褒めるのは苦手」な上司は、「事実を認めて、伝える事」だけでOK…部下は総論で褒められるより、「事実を認められた」方が納得しやすい
④上司が行う「考えさせる質問」から、部下が答えた事に対して「なるほど そういう見方もあるね。それを具体化するにはどうしたら良い?」などと、部下の意見に肯定的に反応する事も「認める」事
⑤上司から認められた部下は、その上司に対して信頼を持つようになり、前向きになる
⑷部下から答えを導き出す「ヒント」の与え方
①部下が自ら気づくには、適度な考え方のコントロールが必要である。それが「ヒント」
② 大上段で「何が原因か」「どうすべきか」と抽象的な質問すれば、部下は答えにくい
③「考えさせるヒント」の事例
●「どうしてそれが原因だと思ったか」…何故を何回も掘り下げ
●「他にも○○みたいな事があったが、Aが一番の原因だと思う理由は?」…選択理由
を掘り下げて聞く
- 「患者様の問題はそうだろうが、どうすればその段階で、トラブルを少しでも防げたか
な?」…患者を理由にして責任転嫁しようとしたら
- 「その問題の時、○に詳しい○さんにはアドバイスを聞いたか?」…自助努力の有無
と、聞かなかったらその理由を更に聞く
- 「日ごろそんな事を言わない、お客様はどうして今回に限って言ってきたと思う?」…
今回に限って、自分の何がいけなかったのか具体的に考えさせる
- 「君が患者様の立場だったら、今回の事をどうすべきだったと思う?」…患者視点で
考えさせる
- 「どうして、○先輩はそんな事をしたと思うかい?」…他人がした事の背景を考えさせ
る、他山の石にさせる
- 「君の立場ではそうかもしれないが、お客様の立場に立ったら、その対策で納得する
かな?」…自分の立場を顧客視点より優先している場合
- 「その方法は正しいと思うが、どんなプロセスでやるつもりか、まず最初に何から手
を付けるかい?」…対策の具体性が乏しく、行動が見えない時
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