中小企業の事業再構築や経営改善計画を策定する際、最も強力な武器となるのが「クロスSWOT分析」です。
しかし、同じフレームワークを使いながら、現場によって「経営者が前のめりになる実践的な戦略」が出ることもあれば、「どこにでもある薄っぺらい作文」で終わることもあります。
その差は一体どこにあるのでしょうか。
結論から言えば、それは分析シートの埋め方ではなく、支援者の「ヒアリング・コーチング技術の巧拙」にあります。
先日、京都大学経営管理大学院EMBA(上級経営会計専門家プログラム)の「戦略と会計」の回にて、税理士や公認会計士の先生方を対象に講義と実践ロールプレイ指導を行いました。
そこで改めて浮き彫りになったのは、知識豊富な専門家ほど陥りがちな「聞き方の癖」でした。
今回は、その現場体験をもとに、本物の戦略を引き出すヒアリングの極意を解説します。
1:税理士・会計士が陥りがちな「ヒアリング4つの病(癖)」
日頃からクライアントに税務や会計を「教える・アドバイスする」立場にある先生方ほど、SWOT分析のヒアリングに入った途端、無意識の“悪癖”が出てしまいがちです。
EMBAのロールプレイでも、多くの受講生が以下の4つの壁にぶつかっていました。
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⑴ 世間話比重が高い 経営者の警戒を解こうとするあまり、相手の話に合わせるだけで時間が過ぎていきます。相手がこちらの意図に乗ってこないと深掘りを諦めてしまい、結局「何を探るための会話だったのか」が曖昧なまま終わってしまうパターンです。
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⑵ アドバイス比重が高い 経営者から思うような答えが返ってこないと、沈黙に耐えかねて自分のアイデアを話し始めてしまいます。「こうしたらどうですか?」と助言を重ね、気づけば支援者側が7〜8割喋っている状態です。これでは経営者の本音や内発的動機は引き出せません。
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⑶ 飛び地質問比重が高い 1つの事実を突き詰める前に、思いつきで別の話題へ飛んでしまう現象です。「売上が伸びた」と聞いたら、その要因を掘り下げる前に「ところで採用はどうですか?」と飛んでしまう。結果として相手の話はぶつ切りになり、経営者は質問の意図が見えなくなります。
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⑷ ファクトへの執念が少ない 「うちの強みは技術力と信頼です」という経営者の抽象的な言葉を、そのまま付箋やシートに書いて満足してしまうケースです。「誰がそう言ったのか」「他社と何が違うのか」という事実(固有名詞や具体的なエピソード)への追及が決定的に不足しています。
これらの癖を意識的に封じ込めない限り、経営者の潜在意識にある真の強みや機会を掘り起こすことはできません。
2:インタビュアーになるな!「深掘り質問」と「ファクト執念」で潜在事実を抉り出す
広く浅く質問を投げかけるだけの支援者は、単なる「インタビュアー」に過ぎません。
経営コンサルタントやMAS業務を担う支援者に求められるのは、経営者自身も気づいていない事実を掘り起こす「コーチ」の役割です。
SWOT分析における「強み」や「機会」には、経営者がすでに認識している【顕在的事実】と、当たり前すぎて見落としている【潜在的事実】があります。
後者を抉り出す武器こそが「深掘り質問」です。
深掘り質問とは、相手が発した“たった1つの事実”に執着し、相手の言葉に乗っかって縦に掘り下げるアプローチを指します。
「その新規受注は、具体的にどこの誰から入ったのですか?」
「なぜ競合他社ではなく、御社を選んだと言っていましたか?」
「その時、現場の誰がどんな工夫をしたのですか?」
このように、固有名詞、具体的な顧客の声、当時の生々しい出来事といった「ファクト」をとことん追求していきます。
相手の話の腰を折らず、発言の波に乗りながら問いを重ねることで、経営者は「そういえば、あの時お客様が『御社のあの対応の早さは他にはない』と仰っていましたね」と、潜在的な自社の強みにハッと気づくのです。
この“気づき”を引き出すコーチング技術こそが、分析の質を根底から左右します。
3:掛け算で導く「積極戦略」実践の4大ポイント
ファクトに基づいた強みと機会が揃ったら、次はいよいよ「強み×機会」の掛け算で【積極戦略】を導き出します。
ここでも支援者のコーチング・ファシリテーション技術が問われます。
実践における重要ポイントは次の4点です。
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① 答えを言わせるための「呼び水(ヒント)」を出す 戦略は経営者自らの口から出させることが鉄則です。安易なアドバイスは禁物ですが、経営者が考えあぐねて沈黙した場合は、「先ほど出た『〇〇という業界ニーズ』に対して、御社の『△△の技術』を商品化するとしたら、どんな形が考えられますか?」と、これまでの対話を繰り返しながらヒントとなる呼び水を注ぎます。
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② 「機会(マーケットイン)」から選択する 戦略の掛け算は、必ず外部環境である「機会」の優先度・実現度が高いものから着手します。顧客や市場のニーズから考えるマーケットインの原則を徹底するためです。「強み」から発進すると、往々にしてプロダクトアウトの独りよがりな戦略に陥ります。ただし、目先の実現可能性ばかりを優先すると、単なる「業務改善(戦術)」に矮小化してしまうため、未来の成長を描くバランスが不可欠です。
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③ 途中で出た新たな強み・機会を逃さずフレームに戻す 積極戦略を議論している最中に、経営者がノッてきて「そういえば昔、こんな顧客開拓をしたこともありました」と新たな事実を口にすることがあります。その際は話を遮らず、その場で強みや機会の欄に書き足せばよいのです。思考の広がりを歓迎する柔軟性が、戦略の厚みを生みます。
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④ 3カ年の概算数値をその場で引き出す 積極戦略のフレームには、3カ年の概算数値(売上・数量・単価・投資額)を落とし込みます。検証前ですから精密な計算は不要です。「単価はいくら位取れそうか」「月間何個見込めるか」「設備や採用にいくら投資が必要か」、経営者の頭の中にある大枠の数字イメージを引き出し、言語化することが実行への第一歩となります。
クロスSWOT分析は、決して教科書的なフレームワークの穴埋め作業ではありません。緻密な管理会計の理論、組織戦略の視図、そして経営者の内面から真実を引き出す「ヒアリング・コーチング技術」が三位一体となって初めて、魂の宿った経営戦略へと昇華します。
現在、税理士・公認会計士の皆様には、単なる過去会計の処理にとどまらず、未来の事業を描くMAS業務や経営支援への進化が強く求められています。
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