昨今の生成AIの進化により、プロンプトひとつで整った経営改善計画書のベースが瞬時に作成できるようになりました。
現状分析から今後の方向性、さらには数値計画の補足説明まで、わずか数分で論理的かつ見栄えのよい資料が仕上がります。
そのため、支援業務の効率化としてAIをフル活用する会計事務所やコンサルタントが急増しています。
しかし、現場では今、深刻な問題が水面下で増殖しています。
それは「見た目は立派だが、中身が完全に空っぽ」な経営改善計画書の量産です。
綺麗に製本された計画書を手にバンクミーティングに臨んだものの、現場の実態と大きく乖離しており、数ヶ月後のモニタリングで実行率ゼロが露呈して金融機関の信用を失う――。
そんな本末転倒な事態が後を絶ちません。AIで作成した計画書の何が問題なのか、現場のリアルな実態から紐解いていきます。
1. AIが作る「それっぽい積極戦略」に経営者の魂は宿らない
生成AIが出力する改善策や成長シナリオは、一見すると非常にスマートで説得力があるように見えます。
しかし、それらはインターネット上の膨大な一般論を綺麗に要約した「最大公約数の正論」に過ぎません。
そこには、経営者が夜も眠れずに悩み抜いた葛藤や、「自社をどう立て直すか」という泥臭い覚悟、すなわち「経営者の魂」がまったく入っていないのです。
魂が入っていない計画書は、金融機関との面談で真っ先にメッキが剥がれます。
ある製造業の中小企業社長の事例です。
支援者の勧めでAIが作成した「高付加価値市場へのシフトと新規開拓プラン」を掲げた改善計画書を提出しました。
しかし、バンクミーティングの席上、金融機関の担当者から「このターゲット層に対して、具体的に誰が、どのような営業アプローチを取るのですか?既存のルートセールス部隊で本当に対応可能ですか?」
と突っ込まれた瞬間、社長は完全に言葉を詰まらせてしまいました。
自らの言葉で考え抜いた戦略ではないため、本質的な質問に対して何一つ具体的に答えられなかったのです。
2. バンクミーティングで露呈する「会社の力量」との乖離
経営改善計画書において極めて重要なのが、目標利益を達成するための「差額対策」です。
売上減やコスト増を埋めるために、どの商材をどのように伸ばすのかという具体策が不可欠ですが、AIが提示する対策は「その会社の実際の力量」を無視した理想論に陥りがちです。
典型的な「コンサルタント・会計事務所あるある」として、AIが提示した「SNSを活用した直販モデルの構築」や「DXによる業務効率化で粗利率○%改善」といった綺麗事を、そのまま差額対策の具体策にコピペしてしまうケースが挙げられます。
しかし、実際の現場には専任のWeb担当者はおらず、ITリテラシーも乏しいのが中小零細企業の実情です。
会社の身の丈に合わない具体策を並べたところで、現場の社員は誰一人動くことができません。
その結果、半年後のバンクミーティングで進捗チェックを行うと、実行状況は「未着手」「検討中」のオンパレードになります。
金融機関側も「立派な計画書だったが、最初から絵に描いた餅だったのか」と失望し、支援先の信頼は失墜してしまいます。
3. AIは下書き。プロの仕事は「強み×機会=積極戦略」の徹底検証にある
経営計画書作成の本質は、パソコンの前でAIに文章を作らせることではありません。
経営者と膝を突き合わせ、徹底的なヒアリングを通じて「この会社が生き残るための道筋」を泥臭く掘り起こすことにあります。
AIはあくまで粗削りな「下書き」やアイデア出しの壁打ち相手として活用するに留めるべきです。
AIを使って作業時間を短縮できたのであれば、浮いた時間のすべてを「自社の本物の強み」と「市場の機会」を掛け合わせた【強み×機会=積極戦略】の検証と深掘りに注ぎ込まなければなりません。
「他社には真似できない独自の強みは何か」
「その強みを求めている顧客や市場の機会はどこにあるのか」。
徹底したヒアリングによって自社の本質的な強みをあぶり出し、それを機会にぶつけることで、初めて実行可能な「本物の商材対策」が生まれます。
さらに、
「その商材を開発・販売するための社内スキルはあるか」
「リソースが足りないならどの外部パートナーと組むのか」
という実現可能性の裏付けまで落とし込んでこそ、魂の宿った経営改善計画書になるのです。
4. AIを使って経営計画書を量産するコンサルタントや会計事務所職員の怠慢
ここで極めて深刻な警鐘を鳴らしたいのは、AIを安易な「手抜きツール」として使い、経営計画書を右から左へ量産しているコンサルタントや会計事務所職員の怠慢です。
本来、経営改善の支援とは、経営者の弱音や葛藤を受け止め、現場の泥臭い事実を一つひとつ丹念に聞き出す過酷な知的労働です。
その最も重要なヒアリングのプロセスを省略し、AIが吐き出したそれらしい文章を体裁よく整えて納品するのは、プロとしての思考停止であり、明らかな職務怠慢と言わざるを得ません。
このような手抜きを続けていると、支援者自身のスキルアップの機会は完全に奪われます。
経営者の本音を引き出す質問力、
数字の裏にある現場の課題を見抜く洞察力、
実現可能な戦略を組み立てる構想力――
これらはすべて、生身の人間と真剣に対峙する修羅場の中でしか磨かれません。
AIに頼り切った支援者は、いつまで経っても本物のコンサルティング能力が身につかないのです。
そして何より、経営者はその不誠実さを敏感に察知しています。
当初は「短時間で綺麗な計画書ができた」と喜んでいた経営者も、どこかで読んだような無機質な言葉が並ぶ計画書を前に、徐々に「本当にうちの会社を理解してくれているのだろうか」という違和感を抱き始めます。
血の通った対話のない支援には何の感動も生まれず、最終的には顧問契約の解除や信頼の喪失という形で跳ね返ってくることになるのです。
経営改善計画書の価値は、資料の見栄えや納品スピードではなく「現場で実際に実行され、成果が出るかどうか」です。
AI全盛の時代だからこそ、支援者には小手先のテクニックではなく、経営者の心に火をつけ、真の強みを引き出す本物のコンサルティング力が問われています。
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