ダメ後継者が真剣に自社の未来について意見を言い出す瞬間
後継者教育にはいろいろなパターンがあります。
これまでも各種の後継者研修があるし、セミナーもあります。
ところが後継者の既に真剣に経営承継を考えている方と、まだまだ若くピント来てない方、そして経営承継を考えるべき年齢なのにまだまだ自発性がない、依存・責任転嫁体質の方…
経営者にとって、3番目の「ダメ後継者パターン」は頭を悩ますところです。
これは甘やかして育ててきたのか、もともとビジネスセンスや資質がないのか、理由はさておいて、こういう後継者が後を継ぐと困るのは従業員や顧客、取引先です。
ところが、そんな一般的にはダメ後継者でも意識が変わる瞬間というものがあります。
今回はそのドキュメントを紹介しましょう。
1、親が強すぎて、意見を言わない後継者
この後継者はカリスマ創業経営者の元で、学卒後入社してきました。
この創業者はとても厳格で自分にも社員にも、そして後継者にも特に厳しい方です。
「人の上に立つ人間は社員の模範である」と常々言う方でしたから、小さな事でも叱責が激しいのです。
こういう育て方をされた後継者です。
外から見ると「委縮した後継者」に見えます。
経営者のいう事には一切逆らわず、従順です。
しかし、経営者からは
「いずれ経営者になるのだから、もっと自分の意見や責任ある行動を前面に出してほしい」
と愚痴を言われます。
しかもこの後継者は長男です。
次男は親の会社に入る事をせず、全く違う業種に就職しています。
そしてこの次男は自由奔放で、どんどん親にも意見をします。
小さいころから親からの重圧を受ける長男を見ながら、上手に立ち振る舞う習慣や性質が身についているのかもしれません。
しかし経営者から見ると、長男より弟の方が頼もしく見えたようです。
2、経営者が65歳の時、ひざ詰めで「経営承継10か年カレンダー」を協議
これまでも経営者は、後継者に心構えや経営の考え方を直接聞いてきました。
時には酒を酌み交わしながら、時には面談で。
しかし、後継者が「自分はこうしたい」と強い意志を言葉にしないから、経営者は経営承継に不安感がありました。
そして弱気になった経営者は
「やっぱり次男を説得して会社に入れて、後継ぎにしようか」と漏らす事もしばしば。
私はその度に
「それはしない方が良い。すべてが崩壊する。長男を育成する事でまだまだできる事はたくさんある」
と話してきました。
そんな時、「経営承継10か年カレンダー」の事例を経営者に紹介し、後継者と一緒に作成したらと提案しました。
経営者は後継者の意思や思いを聞き出すことにつながるのであれば、作成しようという事で決まりました。
早速、後継者も交え「経営承継10か年カレンダー」の作成に入りました。
3、10年後の役員、幹部の年齢、部門後継者を想像して、やっと本格議論
社長の年齢は10年後75才、長男である常務取締役の年齢は50才、事業承継するにはちょうどいい年齢です。
経営者も本人も自分たちの承継年齢は大体頭にあり、ある程度想像していました。
問題は役員幹部の10年間の年齢を入れて、その後の部門後継者の氏名を入れようとした時です。
主だった役員幹部が定年を迎えることは明らか。なのにその役員幹部の後継者が育っていない。
経営者が
「何とか今のうちに部門後継者を育てないと、未来がない。常務はどう思う?」
と問いかけました。
すると、それまであまりは話さなかった常務が
「正直、このままではメインの技術者もいなくなるし、営業統括も専務がいなくなると、課長達では役不足です。今のうちに具体的な教育や権限の委譲を進めないと…」
そこで経営者が「お前はどうしたい?」と振ったら
「人育てにもITは不可欠です。しかしうちは未だにいろいろな事がアナログです。購買から生産管理、設計CADも生産ラインの省力化、営業のWeb対応など、今後は思い切った投資をしてこれを進めないと、時代遅れになってしまいます。」
このような課題は以前から役員会で議論されていました。そしてその責任者は元々この常務だったのです。
すると経営者から
「そんな事は分かっている。お前が責任者だろ。お前がやらないから進まないだけだ。何を評論家みたいな事を言っているんだ」と激高されました。
いつもなら、ココで何も言わなくなる常務でしたが、この日は「経営承継10か年カレンダー」を作成して真剣に経営承継を考えると腹に決めたのでしょう。
常務から
「いろいろ社長に提案したり、稟議書を出しても社長はなかなかOKしない。結局今の役員幹部の現状維持意見を尊重するから、改革がトーンダウンします。私もトコトン議論しないのも悪い事は分かっていますが、社長はいつも私より、役員幹部よりです。だからあまり言いたくないのです」みたいな言葉を一気に吐き出しました。
その後はいろいろ経営者と後継者の認識違いの問答が繰り返されました。
そこで私が既存役員幹部の職務権限移譲計画の立て方、部門後継者育成の重点業務引継ぎスケジュールの立て方の事例やフレームを解説しました。
そして次の役員会から数回に分けてこれらを作成する事になりました。
4、経営者が後継者を尊重する姿勢へ転換した結果
この「経営承継10か年カレンダー」の検討で初めて本音をぶつけた常務。
その常務の思いを言葉で知った経営者。
その後の私と社長との個別面談で
「常務に仕事をさせやすいように、役員幹部に社長からも指示を出しましょう」
と伝えました。
そして役員会や営業幹部会、生産幹部会などで常務がやろうとしている事を改めて説明し、協力依頼をしました。
また役員会前に、社長と後継者と私で「社長会」を開き、役員会の議題や社長と常務のベクトルの一致などを議論し、社長と常務が一枚岩になるよう仕組みを変えました。
この動きが奏功し、IT化の為に現場協力が進み始めました。
特に抵抗勢力ぽかった役員幹部が、渋々でもIT化に伴い各種の取り決めを受け入れようとして姿勢が出た事で、下の課長クラスの動きが取りやすくなりました。
このように組織が動き出す瞬間があります。
この企業の場合「経営承継10か年カレンダー」で後継者の思いをしっかり受け止めた経営者の言動の変化が、部門後継者育成へと弾みをつけました。
「経営承継10か年カレンダー」を経営者、後継者と一緒に議論する事は相当なインパクトがある事は、このケース以外でもかなりの経験があります。
コロナ禍の今こそ、未来を見据えた「経営承継10か年カレンダー」が必要ですね。
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