部下に仕事を任せながら、同時に育てる技術
部下に仕事を任せる時、我々上司がよく忘れることがあります。「この仕事頼むよ」 と指示はするのだけれど、その途中のプロセスと結果のフィードバックを忘れるのです。どういうことか?
戦時中の連合艦隊司令官、山本五十六元帥の言葉と言われている「言って聞かせて」「して見せて」「やらせてみて」「褒めて」やらねば、人は動かじ。と言う言葉です。「言って聞かせて」「して見せて」「やらせて見て」は誰でもやっているでしょう。最後の「褒めて」が抜けていることが多いようです。これがフィードバックです。
部下の仕事の是非の判断
ここでも我々上司はよく間違います。「ちゃんと仕事の結果をフィードバックしていますよ。出来が悪かったら、悪いと言うし、良かったら良い」と。ここで、任せた仕事の出来が良かったら「良い」と言うのは当たり前です。問題は、出来が悪かった場合にどうしているか、です。
普通は「悪い」と指摘し、悪かった箇所を直すように指導します。その時、部下は恐らく「否定された気分」「問題個所を指摘された」と言う、消極姿勢で、上司の言葉を聴きます。実は、それでは部下は、あまり前向きにならないのです。
「仕事で失敗した時」
「出来の悪い仕事をした時」
「上司の期待とはギャップのある結果だった時」
そこにこそ、大きな教育機会と部下のモチベーションアップの秘密が隠されています。それは、どんな上手く行かなかった仕事や結果でも、必ず良かった点や間違っていない点があると言うことです。すべてが悪かった訳ではなく、一部には正しいことをしたはずです。実は、そこをフィードバックで、「認めて上げる」のです。
「A君、◯◯の件は配慮が足らなかったから、相手を怒らせてしまい、結果クレームになったよな。でも、事前の根回しは必要以上にしたから、この位のクレームで済んだのも事実だ。君の根回しはとても有効な事は私が認める」みたいな感じです。
最後に「怒られて終わる指導」か、最後に「期待と良かった点を認められて終わる指導 」かの違いです。当然、後者を目指すべきですよね。
『任せ上手』の上司に共通している仕組み
これは、上司の指示を個別の部下だけに伝えるのではなく、メンバー全員に知らせるということです。内容は
- 上司が行おうとしている、誰にどんな仕事を任せようとしているかという事を、メンバーにも情報公開している。
- メンバーは「上司から誰に何の指示があるか」を知る事で、上司が不在の場合でも、多方面からアドバイスが可能となる。
- チームで職務を移譲し、結果を出す為、業務移管計画の「見える化」、中間状況の「見える化」等の仕組みを構築している。
- 上司個人と任せる部下個人とだけの情報共有にしない。メンバーの多くを巻き込んでいる。
と言うことです。「見える化」と「情報公開」がここでも有効に機能します。
最後に、そうは言っても、これだけは部下に任せてはいけない業務があります。
上司でなければならない業務
その判断基準をご紹介しましょう。
- 部下に任せる事で上手くいかない可能性がある場合、大きなリスクになる場合
- 簡単な事だから部下に任せても良いと、高をくくっていたことが、実は結構な交渉が求められる場合
- 難しい顧客への対応(言い訳や自己正当化が目立つ部下、しっかり謝れない部下、直ぐエキサイティングする部下は不適)
- 最終品質チェック(商品、レポート、顧客へ流れる情報等)
- 外部へ出るプリント資料
- 外部へ出るサービス
- 外部へ出るFAX、メール内容
- 部下からの報告だけで判断せず、自分の眼でトラブルの原因を把握する
- 現場トラブルの事実は、直接自分の眼で確認(3現主義(現場、現実、現品))
- 部下は自己正当化している可能性がある
- 厳しい患者・利用者・家族、クレーム処理と説明責任が必要な場合
- 2次クレームは初動体制の不備から起こる
- 誰が最初に対応するかで、その後が決まる
- 部門間の意見調整や、他部門の管理者と交渉が必要な事
- 部門長同士が常にコミュニケーションを取れて相互に信頼感があるなら問題ない
- 多くの場合、部下は「そういうことは上同士で話を付けてから、こちらに振ってくださいよ」と思っている。
- 部門の方針、戦略、目標に関わる事
- 部門方針、戦略立案は幹部の専権事項である
- 部下に考えさせても、幹部自身の意見が反映させないのは無責任
- 今までやった事がなく、新たな取り組みの場合の責任者
- 原則、部下は新しい事に挑戦したがらない
- 幹部が挑戦して、道筋を見せてこそ、部下がついてくる
- 微妙な経験則が求められる相手への交渉
- 経営者や他部門の責任者への根回し
- 主要な業者への交渉
- 新しいルールを導入する時の初期行動のチェックと指導
- 新たなルールや取組は、放置したら根付かない
- 根付くまでチェックし常に関与するのは幹部である
- 経営幹部への事実報告(部下が担当者でも、上司として把握して報告、部下に丸投げはご法度)
- 経営者は、部下の事実を把握していない幹部を評価しない
- 「部下に任せています」と言う報告をすれば、それは「その業務は私の責任外のことなので、知りません」と同義語
これらの10点は、我々上司の責任事項です。
これらを意識することで、任せることと自分で行うことのちぐはぐさが少しは判断しやすくなるのではないでしょうか。
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