
「先生、AIにSWOT分析をさせたら、こんなに綺麗な戦略案が出てきましたよ。これでもう経営計画はバッチリですよね?」
最近、顧問先の経営者や、若手のコンサルタント、税理士からこうした声をかけられる事例が増えたと聞いています。
確かに、ChatGPTやGeminiなどの生成AIに自社の状況を打ち込めば、わずか数秒で論理的かつ整合性の取れた分析結果や改革案がディスプレイに並びます。
しかし、私はそのたびに本当にそれでいいのか?と感じざるえません。
AIが提示する「100点満点の正解」に経営者が翻弄され、最も重要な「現場の肌感覚」が置き去りにされているケースをあまりにも多く目にするからです。
AIの回答はあくまで過去のデータの平均値。そこに、あなたの会社の「血の通った現実」は反映されているでしょうか。
1. AIが出すのは、どこまで行っても「100点満点の一般論」
まず直視しなければならないのは、AIがいかに詳細なプロンプト(指示文)を入力したとしても、その回答の本質は「平均的な一般論」であるという点です。
SWOT分析で「強み」や「機会」を抽出させると、プロンプトで固有情報を入れたとしても、いかにももっともらしい戦略が並びますが、それはネット上の膨大な情報を整理整頓したに過ぎません。
例えば、ある金属加工メーカーでAIを活用した事例がありました。
AIは「高付加価値な特殊加工へのシフト」を戦略として提示し、経営者も「やはりこれだ」と納得しかけていました。
しかし、実際の現場では、職人たちの高齢化や、長年取引のある顧客が求めている「短納期での小口対応」という泥臭いニーズが収益の柱となっていました。
AIは、その地域の競合他社が倒産したばかりであることや、現場の職人が持つ「勘」の正体までは読み取れません。
AIの案を鵜呑みにして「綺麗な戦略」に飛びつくことは、自社の足元にある唯一無二の武器を捨てるリスクを孕んでいるのです。
2. 現場の「肌感覚」と「違和感」にこそ真実が眠っている
経営において、営業マンが顧客の担当者と交わした何気ない会話や、経営者が工場を歩いた時に感じた「いつもと違う空気感」といった「肌感覚」は、何物にも代えがたい情報資産です。
しかし、AIの整然とした回答を前にすると、こうした直感的な情報は「論理的ではない」と軽視されがちです。
会計事務所の職員が、顧問先の経営者にAI生成の経営改善案を提示する場面を想像してみてください。
データ上は「不採算部門の縮小」が正解かもしれません。
しかし、経営者がその部門の撤退に難色を示したとき、それを単なる「情」だと切り捨ててはいけません。
そこには、顧客がその部門のサービスをフックに別の高利益商品を購入しているという「現場にしか分からない因果関係」があるかもしれないのです。
AIの回答に翻弄されている人は、この「現場の違和感」を言語化することを諦め、表面的な数値や論理に逃げてしまいます。
リアリティのない戦略は、現場を動かす熱量を生まず、結果として絵に描いた餅に終わります。
3. 「深いコーチング」が呼び起こす、経営者も気づかぬ潜在知識
では、コンサルタントや税理士、そして経営者はAIとどう向き合うべきか。
ここで重要になるのが、深い「コーチング」の技術です。
AIに問いを投げるのではなく、経営者自身の内面に深く、何度も問いを重ねることで、本人すら自覚していなかった「潜在的な事実」を掘り起こすプロセスです。
「なぜ、この商品にこだわるのですか?」
「そのこだわりが顧客から評価された事実や誰が評価したのか?何故評価したのか?」
「最近、お客様から言われた一言で、心に引っかかっていることはないか?何故その顧客はそういう事を言ったのか ?」
こうした泥臭い対話を繰り返す中で、「実は、最近ライバル企業が営業をかけてきたらしいが、お客様はうちの『アフターフォローの早さ』を評価して断ってくれたそうだ」といった、AIには絶対に入手不可能な一次情報が飛び出してきます。
この、経営者の頭の中に断片的に存在する「潜在知識」を繋ぎ合わせ、本当の意味で顧客の声を反映したマーケティング戦略を立案すること。
これこそが、AI時代におけるコンサルタントの真の使命です。
AIが出した答えを確認する作業ではなく、コーチングによって経営者の「現場感覚」を呼び覚ますこと。
その先にしか、競合が真似できない独自戦略は存在しません。
AIを道具とし、人間が「熱」を吹き込む経営へ
AIは、情報の整理や思考の壁打ち相手としては非常に優秀なツールです。
しかし、経営という航海において、羅針盤を見るのはAIであっても、舵を握り、波のしぶきを肌で感じるのは人間でなければなりません。
これからの時代、価値を生むのは「AIを使いこなすこと」そのものではなく、AIの回答と現場の肌感覚の「ズレ」に気づき、コーチングを通じてそのズレの正体を突き止める力です。
表面的な分析結果に踊らされるのではなく、経営者の胸の奥にある情熱と、現場に転がっているリアルな声を信じてください。
その泥臭いプロセスの先にこそ、会社を劇的に変える真の改革案が眠っているのです。







