嶋田利広ブログ

会計事務所の職員教育

2026.7.2 AI依存の若手職員が顧問先社長に評価されない理由――AI時代だからこそ光る「アナログな深掘り力」

 

近年、会計事務所の業界でも生成AIの活用が急速に進んでいます。

若手職員を中心に、AIを駆使して驚くほど綺麗で詳細な月次試算表の分析結果や、スマートな経営効率化の提案書を作成するケースが増えてきました。

一見すると、業務のデジタル化が進み、顧問先への提供価値が高まっているように思えます。

しかし、現場の税理士・所長先生から

●「職員が一生懸命作ったAIの提案書を顧問先に持っていっても、社長の反応が

 驚くほど冷たい」

●「若手が思ったように評価されない」

という悩みを伺うことが非常に増えています。

なぜ、AIが弾き出した「完璧な正論」は、中小企業のトップに響かないのでしょうか。

そこには、AI時代だからこそ陥りがちな、重大な落とし穴が隠されています。

 

1,なぜAIの「完璧な提案」は、顧問先社長に響かないのか?

ここに、ある会計事務所の入社3年目の若手職員、A君の事例があります。

A君は生成AIの使いこなしが得意で、ある製造業の顧問先に向けて、

試算表データをAIに読み込ませた「完璧なコスト削減と業務効率化の提案書」を作成

しました。

A君は自信満々で「社長、AIの分析によると、今の外注費を15%削減して社内リソースに集約すれば、これだけの利益が残せます!」とドヤ顔で提案したのです。

しかし、それを聞いた社長はフッと冷たい笑みを浮かべ、こう言いました。

「A君、理屈はわかるよ。でもね、その外注先は先代の時代から、うちが倒れそうな時も無理を聞いて

支えてくれた大恩人なんだ。目先の15%のために、そこを切るのは忍びなくて」

A君は言葉に詰まってしまいました。

生成AIが出した解答は、データに基づく「理想論」であり「一般論」です。

しかし、中小企業の経営現場には、データには表れない

「現実の課題や矛盾」

「顧客との過去からの付き合い」

そして何よりも「経営者の肌感覚や情念」

という超アナログな要素が渦巻いています。

それらを完全に無視したAIの正論をそのままぶつけても、社長からすれば「うちの会社のことを何も分かっていない」と、かえって信頼を損ねる結果になってしまうのです。

 

2,「答えの提示」から「背景の深掘り」へ。今、求められるコーチング力

もし、A君が評価される監査担当者であれば、AIの結果をそのまま伝えるのではなく、それを「問いを立てるための素材」として使ったはずです。

たとえば、

「AIで分析すると外注費の削減がセオリーだと出たのですが、

社長、この外注先様とは普段どのようなお取り組みをされているのですか?」

と一歩踏み込んで聞いてみる。

すると社長から「実は先代の頃にね……」という、会社の歴史や社長の熱い想い、あるいは「実はあそこしかできない特殊な技術がある」という現場の強みが引き出せたはずです。

「なぜ、この数字になっているのか」

「数字の背景に、どんな現実や心の動きがあったのか」。

 

本当に価値があるのは、AIが出した答えそのものではなく、その答えをフックにして

経営者の本音や背景を「深掘り質問」するコミュニケーション

です。

AI時代だからこそ、監査担当者が果たすべき役割の比重は、単純な数字の報告から、こうした「深掘りコミュニケーション」や「深掘りコーチング」へと完全にシフトしているのです。

 

3,このままでは「AIで十分、担当者は不要」と言われる未来

若手職員が「答えをAIで出すこと」だけで満足し、その先にある人間同士の会話の深さを追求しないままでいると、非常に恐ろしい未来が待っています。

現在の生成AIは非常に優秀です。

もし会計事務所の職員が、AIの作ったレポートをそのまま読み上げるだけの「伝書鳩」になっているのであれば、顧問先社長はある日突然、こう思うでしょう。

「こんな一般論の解答やレポートなら、うちのパソコンでAIに聞けば5秒で出てくる。

君に毎月高い顧問料を払って来てもらう必要はないよ。AIで十分だから」。

AIの技術や操作スキルを追求することは、これからの時代、最低限の「前提条件」に過ぎません。

今後の本当の差別化は、AI技術の先にある「アナログ的なコミュニケーション力」をどれだけ徹底できるかです。

AIには絶対に真似できない「目の前の社長の表情を見ながら、泥臭く本音を引き出す力」こそが、職員が生き残り、事務所が選ばれ続けるための唯一無二の武器になります。

 

4,AI時代を生き抜く職員を育てる「ロープレ研修」の重要性

では、こうした「アナログな深掘り力」を、どうやって若手職員に身に付けさせればよいのでしょうか。

座学で「コミュニケーションが大事だ」と100回説教しても、若手の行動は変わりません。

必要なのは、知識のインプットではなく、実際の現場を想定した徹底的な「アウトプットの訓練」、

すなわち定期的なロープレ(役割演技)研修です。

 

もし社長から『そんな正論は分かっている』と言われたら、どう切り返すか?」

「数字の異常値を見つけたとき、背景を聞き出すためにどんな最初の『一言』を投げるか?」。

これらを頭ではなく、体と声で覚えるまで繰り返し練習する環境が不可欠です。

株式会社RE-経営では、これまで全国の数多くの会計事務所において、この「ロープレ研修」を実施し、AI依存から脱却した「経営者に信頼される自立型担当者」を育成してきました。

「職員の提案がいつもピント外れで、社長に響いていない」

「AIを使いこなしてはいるが、顧客との人間関係が浅い」

とお悩みの税理士・所長先生は、ぜひ一度、弊社のロープレ研修についてお気軽にお問い合わせください。

現状の課題に合わせた最適な研修プログラムをご提案いたします。

 

AIという強力な武器が登場したからこそ、それを使う人間の「人間力」「アナログな関わり方」の差が、これまで以上に露骨に結果として表れる時代になりました。

AIに仕事を奪われるか、それともAIを相棒にして顧客から絶大な信頼を得るか。その分岐点は、コミュニケーションの深さにあります。

大切な職員を「AIに負けない一流の監査担当者」へと育てるため、今こそ事務所一体となって、アナログなコミュニケーション力の強化へ一歩を踏み出してみませんか。

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